合理的配慮
合理的配慮とは
1.背景
障害のある人たちの生活には様々な困難があります。こうした困難はその人の医学的な異常や機能不全(これをimpairmentと言ったりします)に由来する、というのが古くからの障害観でした。これに対し、イギリスやアメリカで障害はむしろ社会の構造によって生じている、社会的な障壁があるために自分は障害を負っている(これは何かができないという意味でのdisabilityです)という考えが生まれてきます。古くからある障害観を「医学モデル」、新しい障害観を「社会モデル」と言います。
医学モデルに立つと、治療が障害の克服の手段となります。しかし、社会モデルに立つと社会の構造の変化、障壁の除去が障害の克服の手段となります。現実的にはこの両者の観点を統合的に用いることになりますが、合理的配慮とはこの社会モデルの立場から求められているものです。
言葉を換えると、「合理的配慮」とは、「社会的な障壁が存在するために障害を負うことになっている人が当然に享受するはずであった権利を回復するための措置」であるということになります。「配慮」という言葉が使われているために、思いやりや支援と同じものとして考えられやすいのですが、英語ではreasonable accommodationと言い、accommodationには調整という訳がふさわしいと言われています。
2.定義
文科省によるまとめでは、大学における合理的配慮は以下のように定義されています。
障害のある者が、他の者と平等に「教育を受ける権利」を享有・ 行使することを確保するために、大学等が必要かつ適当な変更・ 調整を行うことであり、障害のある学生に対し、その状況に応じ て、大学等において教育を受ける場合に個別に必要とされるも の」であり、かつ「大学等に対して、体制面、財政面において、 均衡を失した又は過度の負担を課さないもの
障がいのある学生の修学支援に関する検討会報告(第一次まとめ)
これをより具体的にすると、合理的配慮とは以下のような要素から成り立つものであると言えます。
- 目的:「教育を受ける権利」を保証する。他の学生が受けられる教育、あるいは教育上利用できるサービスはすべて保証されます。
- 手段(1):必要かつ適当な変更・調整を行う。上記のために授業の提供の仕方に変更や調整が加えられます。具体的には代表的な支援メニューや実例集などをご覧ください。
- 制限:
- 教育を受ける場合に個別に必要とされるもの。前例の有無に拘わらず、必要な措置をその都度検討することになります。他方、他の学生が享受・行使している権利を保障するもので、それ以上のものとはなりません。
- 均衡を失しないもの。変更・調整は一定の範囲内に留まります。その基準は、授業の目的や本質を損なわない範囲であること、他の学生の不利益にならないこと、などです。
- 過度の負担を課さないもの。経済的、体制上の、人的負担なども考慮されます。障害に応じて必要である変更・調整がすべて行えるわけではありません。
- 手段(2):建設的対話。必要な措置を実現する上で、本人と関係者でこれを協議し、合意を目指します。これを建設的対話と呼んでいます。必要な調整・変更が実現できるものではない場合にも、建設的対話を通して、次善の策を考えることになります。
3.考え方
例えば、目が見えないために資料を点字に直して欲しいという要望があったとします。これには一定の合理性があります。しかし点字に直すための負担も考慮され、資料の読み上げサービスを提供する、あるいはパソコン等で読み上げ機能を使えるように書式を整えたPDFファイルを用意するといった方法が取られるかもしれません。また、問題への解答を口頭で報告する、あるいはそれを代筆してもらうということも合理的配慮になりえます。しかし、問題を解くことが困難であるために問題を優しくして欲しいといったことは合理的配慮にはなりません。合理的配慮の目的は教育を受ける権利の保障であるためで、それによって単位が取れるといった結果を補償するものではないからです。
教育を受ける権利に該当するかどうかを考える基準は、「他の学生が得ている授業、内容、資料、情報などにアクセスできるか、利用できるか(これをaccessibilityと言います)」にあると言えます。
合理的配慮の申請
1.手続きの流れ
合理的配慮の申請には所定の手続きが必要です。手続きは以下のような順番で進みます(こちらのフローもご覧ください)。
ステップ | 内容 |
---|---|
0.事前の相談 | アビリティ支援センターにて合理的配慮とその手続きについての説明、問題や困難についての聞き取り、ニーズの聞き取り、合理的配慮内容の選択、申請書の書き方の助言。 |
1.合理的配慮の申請 | アビリティ支援センター宛に申請書類の提出。 |
2.合理的配慮の内容についての協議 | 申請書に記載された希望する合理的配慮内容について、学生本人またはアビリティ支援センター相談員から関係教職員に問い合わせ、協議。必要な場合には配慮内容について再調整。申請書提出に先行して問い合わせ、協議を行うこともあり、タイミングによってはその結果を申請書類に反映させられる。 |
3.合理的配慮の決定 | 所定の会議での審議を経て合理的配慮の決定。通知を学生本人および関連する教職員に送付。 |
2.手続きのポイント
ここでのポイントは、合理的配慮の申請がなされた後で、検討が開始されるということです。このことは本人の同意なしに他の学生と異なる扱いをしないという別の観点からの権利擁護として重要です。逆に言えば、親や家族、教職員、友人などが申請をすることはできないということでもあります(相談は可能です)。
しかしながら、申請をするためには、合理的配慮がどのようなもので、自分がどのようなことを必要としているかを学生自身が理解していなければなりません。申請書の書き方について分からないこともあると思います。あるいは申請自体に迷いがあったり、躊躇していることがあるかもしれません。そのため、事前の相談を利用してください。
事前相談なしでの申請も可能です。その際は、事前相談でお聞きする内容を改めて確認するための面談を設定します。
3.手続きにかかる時間
上記のプロセスにおおよそ1ヶ月かかります。各学期の始まりから合理的配慮を利用したい場合には、1ヶ月前には事前相談にお越しください。具体的な申請書提出の締切は8月または2月にお知らせでお伝えします(ただし、この締切は合理的配慮の提供が学期開始時に間に合うための締切であり、これを過ぎても合理的配慮の申請は可能です)。
4.有効期間
合理的配慮の有効期間は卒業(学部)、または修了(大学院)までです。この期間、再申請の必要はありません。ただし、学年が上がったり状況が変化したことで、希望する配慮内容に変更があった際には、追加・変更の申請をしてください。
また、学部を卒業して大学院に進学した際も再度申請をしてください(教育システムが異なるためです)。
書類
合理的配慮の申請にあたっては、以下の所定の申請書類の提出が必要となります。
書類名 | 説明 |
---|---|
合理的配慮申請書 | 障害の分類によって異なる申請書がありますので、適したものを使用してください。 肢体不自由,視覚障害,聴覚障害,難病・内部疾患・その他,精神障害,発達障害 |
根拠資料 | 障害者手帳、診断書、専門家による意見書など。所定のフォーマットはありません。コピー可。 |
情報共有に関する同意書 | どの範囲までの情報共有に同意するかを示す書類です。署名または捺印をしてください。 同意書 |
時間割 | 関係する教職員に問い合わせと通知を行うために使用します。申請のタイミングで時間割が確定していない場合は、確定後に提出をしてください。 |
提出先:アビリティ支援センター(郵送、メール、手渡し)
追加・変更の申請にあたっては、「合理的配慮申請書」の「修学支援の希望内容」の蘭を変更して提出してください。
不服申し立て
合理的配慮の決定に関して不服がある際には、アビリティ支援センターにご連絡ください。再調整を行います。それでも解決しない場合には、下記の部署が不服申し立ての窓口となっていますので、ご相談ください。